見知らぬ海へ 隆慶一郎

戦国時代 武田家と徳川家に仕えた清水の海軍大将 向井正綱の一生を描く、作者隆慶一郎の遺作である。

未完であるが、軍人としての自覚も何もない時分から立派な徳川家水軍大将として大成するまでの主人公向井正綱の魅力溢れる人生譚が描かれている。

城を抜け出て呑気に釣りをしていたら、城が敵襲され父や義兄を失う。

釣りに呆けて親殺される釣りバカ、魚釣り侍(魚釣り三昧転じた揶揄)と呼ばれた男が、家族、家臣、水夫などを護るため、海の男としての誇りを胸に正直に義に生き成長していく。

彼の心根の素直さが、人を惹き付ける。

当初は死に場所を見つけるような無茶な戦いをしていたが、どんどん戦い方が洗練されてきて、風格が出てくる。

海人である大将は海に愛される男だ。義理堅く、無用な殺生をしない。

そんな海賊大将を信頼して忠義を尽くす船員達も、また海人である。

海と相対する男は皆、分かっているのだ。真っ当に生きる。意義のある死なら恐れることはない。恥じるような生き方をするな。

物語は外国船の登場から次の展開を感じさせる端緒で唐突に終わる。惜しい。惜しいが仕方ない。死んだら終わり。だからこそ生きている時間をどう生きるかが大切なんだ。

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