(短篇集)知られざる傑作 他五篇/バルザック著・水野亮訳

自分で買った記憶がないので、おそらく実家から邪魔だと送られてきた僕自身の蔵書に紛れて、父の蔵書の一冊が紛れ込んだのであろう。

バルザックはフランスの著名な作家だそうだが、はじめて読んだ。

人は誰でも大なり小なり異常な部分を内包している。異常な部分はさらけ出すものではなく、自愛するものだ。バルザックの小説内の登場人物達は自身の異常性を自愛している。あからさまな欲望ではなく抑制している。それでも隠し通せない異常性は、まさにその人そのものの個性であり、関係する人、家族や恋人、友人たちと様々な事件を引き起こし、悲喜こもごもを繰り広げる。人生挽歌だ。

収められている短篇の要約は下記のとおり。

知られざる傑作:天才老人画家が生涯の最高傑作として10年もの歳月をかけた女性の絵は、他者では理解できないものだった。それまでの天才画家との話からまるで実在の女性を凌駕するほどの美や自然性を期待し、天才画家を常々尊敬していた二人の画家だったが、その最高傑作を目にすると失望した。天才老人画家は素晴らしい作品群を燃やして自殺した。

砂漠の情熱:脱走兵の男が砂漠に迷い込み、洞穴で出会った雌の豹と心通わせ恋愛感情にも似た交流をするが、最終的には誤解が元で男は女豹を殺す。

ことづけ:旅先で馬車に乗っている最中に居合わせた男と仲良くなるも、道中に馬車が事故にあい不幸にも男が死んでしまった。死ぬ間際、男は私に恋人へのことづけを頼む。私は彼の恋人を訪ねるが、恋人は子持ちの伯爵夫人であった。伯爵夫人は慈愛に満ちた魅了的な人であった。故人の死を存分に悲しみ、金銭的困窮している私に対して感謝の意をさり気ない形でお金でくれた。

恐怖時代の一挿話:王様をギロチンで死刑執行する死刑執行人が、身分を隠し、迫害されて世を偲ぶキリシタンの司祭と修道女二人が身を寄せ集めて質素に暮らすボロ屋を訪ねる。司祭らは死刑執行人と知らず死刑執行人の懺悔を受け入れ神に祈る。凍えるほど寒い冬の日、ボロ屋には雪が吹き込むが、信仰心のあつい司祭や修道女は信心深く、祈りに陶酔する。質素なボロ屋のボロ祭壇と、真に崇高な信仰心の対比が、神々しい。

後日、司祭は街で新たな王様の死刑にあたってのパレードに遭遇する。そのパレードの中に死刑執行人がいて愕然とする。た

ざくろ屋敷:美しいフランス トゥール地方ロワール川ほとりにある屋敷に引っ越してきた未亡人と二人の息子。彼らは気高く、品があり、地域の興味を集める。未亡人は死に、息子の兄は軍隊に入り、弟を寄宿学校に入れて大学生になるまで面倒を見る。引っ越してきたばかりの頃の幸せな生活から、母が衰弱して死ぬまでの変化を描写している。

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