食のベストエッセイ集/小泉武夫
味覚人飛行物体、ムサボリビッチ・カニスキー、発酵仮面と数々の異名を持ち、自宅の厨房を「食魔亭」と呼ぶグルメ発酵学者小泉武夫氏のベストエッセイ集。
それはもう、読んでいると生唾がピュるピュると止まらなくなってしまう至極のグルメエッセイ集なのである。
数々のカニを食してきた作者が、過去最高のカニと称していたのは藻屑蟹。なんと、私も和歌山で食べた藻屑蟹が忘れられない。もう一つは函館の蟹漁師宅でご馳走になった毛蟹。これも忘れられない。
で、藻屑蟹。著者が紹介するのは佐賀県唐津市浜玉町の「飴源(あめげん)」の藻屑蟹。
見事に蒸し上げられた真っ赤で大きな藻屑蟹。つかみ取るとズッシリとして重い。心ときめかせて胴部と殻部とをパカッと割るようにして引き離すと、わああ、凄い。嬉しい。甲羅の内側にも、胴体の中央部あたりにも、例の赤みがかった橙色の蟹味噌がベッタリとついている。すかさずそのあたりに口を付け、舌でペロペロしたり、チュウチュウと吸ったり舐めたりした。その蟹味噌の濃厚でコクのある味は、たちまちのうちに我輩の大脳味覚野系器官に反射されて、もう極限の美味状態に達したのである。
こんな文章が続くんだから、たまったもんではない。万障お繰り合わせの上、おくりあわなくても、着の身着のまま佐賀県へと飛び立ちたくなる。
あとは紹介されていた料理だと、どじょう鍋も食べてみたい。
お腹が減った。